ここ最近横浜は暖かくなってきた。ひさびさに現場で上着を脱いだ。弁当後の昼寝も気持ち良い。今やってる現場は横浜の根岸の2世帯の個人宅。レンガでテラスを造っている。昨年末に竹垣をこさえて、年始に雪が降った際、その竹垣に雪が積もった写真をおばーちゃまが俺に見せてくれた。「あまりに風情が良かったので、写真を撮ってあなたに見せようと思っていたのよ。」とおばーちゃま。「デジカメで撮って、自分でプリントアウトしたのよ。」と言って嬉しそう。青竹の緑色が変わっていくサマがまた好きらしい。嬉しい限りだ。今回は、芝生が庭木の陰になってハゲてしまっている部分に、テラスをこさえようというご依頼。作業をしていると、おばーちゃまは時折出てこられて、「大変ねー。土を出したり、石をはずしたりいろいろやることがあるのね。ただレンガ並べるだけじゃないのねー。」としきりにねぎらってくれる。今は亡き夫は大学教授だったとかで、なんとなくインテリっていうのか、品の良さってものを感じる。こちらも仕事をしていて気持ちが良い。
さて本題の「ニクヤサイテショク」。
昼の移動が多い日で愛妻弁当をもたない日などに、たまに行く地元の中華屋の話。半年位前に開店して、前を通るたびに、「あやしい中華屋だなー。」と思って気にはなっていた。店の入り口は濃い目の緑色のガラス張り。看板はなんだか妙な黄色。以前そこがラーメン屋だった頃何度か行っていたから、中のつくりは大体わかっている。何度か昼時前を通っていたけど、なかなか勇気が出なくて入れなかった。昼時だっていうのに、空いているのもわかったし。
ある時、昼飯を食うタイミングを逃がしていて、2時頃その店の前を通った。めちゃめちゃ腹減ってたし、思わず車を止めて、その緑色の引き戸を開けてしまった・・。「イラシャイマセ~。」とあやしげなイントネーションの年配の婦人。奥の方から「ア、ドモ、イラシャイマセ~。」と同じイントネーションの年配の旦那。たぶん中華人だろう。どこに座ろうかなーと、店内を見渡す。とりあえずテーブル席についた。客は俺ひとり。メニューを眺める。壁一面に素晴らしく汚い字でメニューが書いてある。思わず半笑い。何とか「肉野菜炒め定食」を判読して注文。「ハイ、ドーモ、ニクヤサイテショク、アリガトゴザイマス。」と婦人の大きな声。店内は静まり返っている。テレビの音もラジオの音もない。というのも、俺が店に入った瞬間に、旦那がラジオを消したのを俺は知っている。何故消すのかわからないが、とにかく旦那の振る中華なべの音と、婦人の食器を洗う音だけ。新聞も無く、奥の棚にマンガ本が置いてある。持て余していると、「ニクヤサイテショク」が配膳されてきた。その「ニクヤサイテショク」を見て驚いた。長方形の重箱がひとつ置かれた。
左に小付け、真ん中に大盛りご飯、右にニクヤサイ炒めが盛られていた。それからドンブリのワカメスープ。とりあえず食べてみる。静まり返った店内に、俺が食べる音だけが響く。なんか変な緊張感。親父は何してるのかと思ったら、厨房内にあるイスに腰掛けて壁を見つめ首をかしげて物思いにふけている。おばちゃんは洗い物の続き。何故親父がラジオを消すのか・・なんてことを考えながら「ニクヤサイテショク」を食べ続ける。見た目は笑うけど味は良い。何か明らかにずれている・・。それが笑えてその後何度か通っている。ある時ねぎラーメンを注文した。定食類と同じ750円。かなりショボイねぎラーメンだった。何故これが質も量もある定食類と同じ値段なのか。見渡してみると、ほとんど750円。「750」という数字が単純に好きなのか・・?謎が多い。店が何年持つのか楽しみだ。俺は応援しようと思う。